水晶の舟 / ライブ評


水晶の舟 <UNDERGROUND SPIRIT Ⅺ - 花の記憶
(吉祥寺 シルバーエレファント/2018年9月21日






1999年から東京拠点に世界的な活動を続けているサイケデリック・バンドの、
水晶の舟の単独公演<UNDERGROUND SPIRIT Ⅺ - 花の記憶>のライヴに行ってきた。

会場に入るといきなりお香らしき匂いに鼻をくすぐられた。
キリン・ラガーの瓶ビールをラッパ飲みしながら開演を待つと、
まもなくステージに水晶の舟の4人が姿を現す。


水晶の舟の現在のメンバーは、
バンド創設者である紅ぴらこ(vo、g他)と影男(g、vo他)、
そして松枝秀生(b他)、原田淳(ds他)である。
バンドとしては結成19年目だが、
一人一人は40年前後の音楽キャリアを持つ筋金入りだ。
PSFレコードからリリースした2枚のCDを含めて、
内外の様々なレーベルから作品を発表してきている。


対バンのあるライヴとは違って水晶の舟の様々な表現が堪能できた。

手に持ってささやかに奏でる色々な打楽器をはじめとして、
ロック・バンドがほとんど使わない多彩な楽器をメンバー全員がところどころで使い、
ライヴのところどころで儀式めいた“コーナー”も設けられていた。
インプロヴィゼイションも織り交ぜていた。

とはいえヴォーカルを中心にしたロック・サウンドが基本と言える。
2本のギター、ベース、ドラムスによる“歌もの”のパートが多く、
ミニマルなテクスチャーで10分から20分ぐらいかけてじっくりと進めながら曲を高めていく。
曲は長めながら歌が軸にあるから難解ではなくて音楽の中に入っていきやすい。
いかにものアンダーグラウンドの閉鎖したイメージとはかけ離れていて、
とても開かれた音楽だ。


研ぎ澄まされた歌声と音のブレンドが真正のサイケデリック・ミュージックを生み出していく。
裸のラリーズ、
エレクトリック・ギター弾き語りがメインのライヴにおける灰野敬二、
中期までのVELVET UNDERGROUNDを頭をよぎる瞬間もあった。
でも、いわゆる轟音はほとんど聞こえてこない。

水晶の舟のロックにはエゴがない。
自分の中のものが浄化されていくかのようで、
とてもナチュラルでオーガニックなやさしい響きだ。
やわらかなサウンドでストロング・スタイルのサイケデリックの味わいがゆっくりと広がっていく。

淡くて時にコシが強くなる松枝のベースも、
パワフルでロックな疾走も見せる原田のドラムも、
いい意味でリズム隊らしく水晶の舟の屋台骨。
しなやかに曲を動かしていた。

影男のギターは紅ぴらこのギターに寄り添ってシャープにおくゆかしく大胆だ。
数曲で歌う影男のヴォーカルは、
ところによっては林直人(AUSCHWITZ)と金子寿徳(光束夜)も思い出したが、
いぶし銀の渋味の効いた“ソウル・ミュージック”だ。

一方で紅ぴらこのギターはノイジーではないにもかかわらず強靭な鳴りで覚醒させる。
怖いほどである。
大半の曲で歌う紅ぴらこはシャーマニックな佇まいで、
ニコがやさしくなったように喉を震わせ、
斜め上を見ながらたおやかな歌声を歌声を解き放っていく。
とても小柄でオフ・ステージだと砕けたところも見せるが、
ステージではとても大きく見えて凛とし、
派手な動きをしないだけにクールでカッコいいステージングに魅せられた。

日本語の歌も相まって和の情趣が湧き上がる。
この夜のライヴの副題である“花の記憶”と関連があるのか、
紅ぴらこが手にしたギターのヘッドの部分には赤い花が飾られていた。
「バラが咲いた」のカヴァーに聴こえた曲も長尺で濃厚に披露し、
デリケイトな哀切の歌心に痺れた。


ライヴ中に、
シリアへの緊急医療援助のためのチャリティ・ライヴを2013年の年末に水晶の舟が行なったことを、
ふと思い出した。
“みんなと一緒”ではない水晶の舟の独自の活動展開がひそかに表れていた行動だが、
そういう祈りめいた光も歌と音から確かに放たれていた。


静かなる波と渦のサウンドの中を
まさに水晶の舟でゆっくりと進んでいくような
とてもしあわせな2時間半。
愛おしくなるほど大切にしたい。





(行川和彦氏/音楽ライター)




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